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ひな祭り

雛人形の歴史を職人が解説!起源から近現代の商売事情まで

毎年なにげなく飾っている雛人形、どのような歴史があって現在の形になったのかご存じですか?

現在、雛人形にはデザインだけでも数多くの種類がありますが、その起源は遥か古代からの日本人の信仰が表れていたり、逆に実は商品として確立されたのはつい最近、というものもあります。

今回はそんな雛人形の歴史について古来のルーツから近現代の商売事情まで、創業約100年『人形工房 左京』の4代目跡継ぎが解説します!

お持ちの雛人形の歴史を知っていただく上でも、もしくはこれから雛人形を購入される上でも雛人形の歴史を楽しみながら知っていただけるよう、なるべくわかりやすく説明していきますので、ぜひご一読下さい!

動画でも解説していますので文章を読むのが面倒な方はこちらをご覧ください。
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古来からの魂や厄が人の形のものに移る、という信仰

日本では古来から「多神教」(キリスト教やイスラム教が「唯一神」を信仰するのと対照的ですね)や「言霊」のような独特の信仰があります。

そんな日本古来の信仰の中の一つとして紙や木などを材料に人をモチーフとして作った人形を撫でたり、息を吹きかけたりすることで、人間の災厄を人形に引き取ってもらえることが信じられていました。

いわゆる「呪いの藁人形」も、藁人形を通じて厄や呪いをかけるという、人形に魂が宿るといった信仰をルーツにしています。

雛人形・ひな祭りの起源は平安時代!紙の人形(ひとがた)、形代(かたしろ)

「人形に厄を引き取ってもらう」という信仰自体は古来からありましたが、平安時代頃にはそのそれが現代に通じる形で習慣化していたと言われています。

紙などでできた人形(ひとがた)、形代(かたしろ)に季節の食べ物を供えておまじないをかけて人の厄を移した後、それを川に流すことで清めてもらう。そうして無病息災を願うことが毎年の風習とされていました。

この風習や厄落としという考え方から、1年で最も不吉な日と考えられていた3月3日に行われるようになるのがひな祭りの起源です。

なお、ご存じの通り現代のひな祭りは人形を飾るのが主流ですが流し雛やこれに似た行事は現代でも各地で行われています。

子供のお守りとなった天児(あまがつ)と這子(ほうこ)

人形・形代が現代の雛人形に通じる形で意味や形を変えていったのが天児(あまがつ)・這子(ほうこ)と呼ばれる人形です。

天児(あまがつ)は竹で作られた簡易な人形に着物(赤ちゃんの産着など)を着せたもので、子供の病気や災厄を代わりに受けてくれる人形としてのお守りのような役割を担いました。

這子(ほうこ)は白い絹の中に綿を詰めた顔の書かれていない簡単な人形で、神聖なお守りとしての意味合いを持っていましたが、後に小さな子供の遊び道具のようや役割も持つようになります。

それぞれの役割は少し異なりますが、どちらも小さな子供の災厄の身代わりとして作られたもの。

当時は医療が未発達で子供、特に生まれたばかりの幼児の死亡率が高く、無事成長できること自体がおめでたいことでした。「子供に健やかに成長してほしい」というのは受け継がれる親の願いではありますが、その切実さは現代とは比べ物になりませんでした。

天児(あまがつ)・這子(ほうこ)は子供の無病息災を願い、そばに置かれるお守りとしての役割を果たしました。

ちなみに、現代の雛人形の多くはお姫様・お殿様が座っていますが(座り雛といいます)、立っているデザインの「立ち雛」も根強い人気を持っています。この立ち雛のデザインの元になっているのが天児(あまがつ)・這子(ほうこ)とも言われています。

江戸時代以降、古来中国の考え方を取り入れながら現代の雛人形に通じる豪華な人形が浸透

雛祭りは時代を超えて主に貴族の間で受け継がれてきた伝統ですが、江戸時代になるとその文化は一般庶民の間にも浸透してきました。

平和が続くと文化が発展します。雛人形の文化的歴史の中で大きなターニングポイントの一つは江戸時代。人形作りの技術の向上もあって、雛人形は人を模した簡易なつくりものから精巧なデザインになり、華やかな着物が着せられるようになりました。

人形の種類もお殿様・お姫様に加えて、童謡『うれしいひなまつり』に登場する「官女(三人官女)」・「五人囃子」などが登場し、皇族の結婚式をモチーフとした豪華な並びができあがります。

当時の「女の子の幸せ」といえば健やかに成長し、幸せな結婚を迎えること。だからこそ、最も華やかで、庶民の憧れでもあった「皇族の結婚式」が表現されているわけです。

お守りである雛人形によって先に結婚式を挙げることで、守られる女の子も将来幸せな結婚が確約される。これも言霊信仰、「思考は現実化する」ということですね。

元々は川や海に流すことで厄を持って行ってもらう役割であった雛人形ですが、お守りとしてそばに置かれるものへ、そして華やかに飾られ、無病息災だけでなく将来への幸せも願われるものへと変化していきました。

中国の陰陽説からの由来もあり、「上巳(じょうみ)の節句」・「桃の節句」とも呼ばれる3月3日に雛人形を飾る、現代のひな祭りに通じる原型ができがったのも江戸時代です。

高度成長期にひな祭りパッケージ商品「七段飾り」が爆発的大ヒット!?

江戸時代に新たに登場した種類の人形が勢ぞろいするのが、パッケージ商品「七段飾り」。お殿様・お姫様・三人官女・五人囃子・警護の老人と若人・三人の仕丁と総勢15人の人形と数多くのお道具が揃う、いわば雛人形のフルセットです。

平安時代の皇族の華やかな結婚式を模した七段飾りセットは一見歴史が長いようにも見えますが、実は現在のようなセットとして販売されるようになったのは高度経済成長期あたりから。比較的歴史の浅い商品なのです。

人形が豪華になり、お守りとしての意味合いだけでなく飾って楽しむ側面も持ち始めたのは江戸時代ですが、当時の雛人形は決まったセットがあったわけではありませんでした。

それを百貨店などの登場、流通網の発達、「商品」としてパッケージが求められたことから「最初からセット商品として売ってしまおう!」という業界の商売人都合と、高度経済成長期の国民の所得の増加、豪華なセットを好む流行が相まって、七段飾りが爆発的にヒットしました。また、メジャーではありませんが「三棚・三歌人」を加えた『八段飾り』という商品も今も残っています。

現在も根強い人気を誇る七段飾り。見た目の華やかさは素晴らしいのですが、一方で値段が張ってしまうことや、何よりも現代の住宅事情の中ではスペース(飾るスペース・収納しておくスペース共に)の課題を抱えることも多いようです。

七段飾りは素晴らしい商品ではありますが、あくまで数多くある雛人形のラインナップの一つ。そこにとらわれることなく、ご自身が「欲しい!」と思える商品を選ぶことが重要です。

現在の雛人形は生活に寄り添いながら「健康・自立・繁栄」といった普遍的な祈りの象徴に。

雛人形は

  • 「人の身代わり」(古代~平安時代)
  • 「子供のお守り」(平安時代)
  • 「女の子のお守り」+「幸せな結婚を願うおまじない」(江戸時代)

とその形とともに少しずつ意味合いも変えながら受け継がれてきた伝統。現代ではどういった意味を持たれているか考えてみたいと思います。

現代のひな祭りは人々の生活に寄り添いながら普遍的な祈りの象徴へと原点回帰しています。

現在、雛人形・ひな祭りとの付き合い方は人それぞれ。伝統を知った上で大切な行事として捉えられている方もいらっしゃいます。伝統はあまり気にせず、3月3日には雛人形を飾って特別なお菓子やケーキを食べる、といったカジュアルで楽しいイベントとして捉えられることも。あるいは「伝統に従わずとも自分の人生を!」という方もいらっしゃると思います。

どれが正解・どれが間違い、などというつもりはありません。

ただ、「伝統廃止」派の方が「今時男の子の祭りと女の子の祭りを分けるのは男女差別だ!」もしくは「女の子の幸せ=結婚なんて時代錯誤だ!」というお考えであれば、少しだけ立ち止まって考えて頂けると嬉しいです。

確かに「男女を分ける」・「結婚が幸せの象徴」といった個々の論点は現代にそぐわない面もあります。ただ、雛人形が形や意味合いを変えながらもずっと受け継がれている根底にあるのは「子供の健やかな成長と自立、繁栄」を願う想い。それが伝統の転換期において当時の意識(つまり江戸時代の「幸せな結婚」)が色濃く反映されているに過ぎません。

雛人形は現代も結婚式をモチーフとしてはいますが、それは「幸せな結婚をしろ!」というようなメッセージではなく「幸せな人生を送ってほしい」という願いの象徴。そのくらいで捉えていただければ良いと思っています。

多様性が重視される現代だからこそ、伝統の一点にとらわれず、その根本に受け継がれている変わらない想いをくみ取って再解釈することも求められてくるのではないでしょうか?

それでも、伝統を大切にしてもらえることは嬉しいことですが、伝統が人を縛り、重圧になってしまっては意味がありません。なので、伝統についてもできれば一度きちんと知っていただいた上で、それをどの程度重視するのか、あるいは重視しないのかを決めていただければいいのです。

雛人形に込められている根本的な思いは「幸せな人生を送れる」こと。伝統をしっかりと遵守していただくのも、単にカジュアルなイベントとして楽しんでいただくのも、あるいはひな祭りなんてものは無視して生きよう、というのもご自身にとっての正解を決めてもらえれば構いません。

私達は伝統の担い手です。しかし、だからといって伝統をお客様に押し付けるのではなく、お客様のニーズが「伝統文化としての人形」なのか「ひな祭りイベントのための華やかな人形」なのかをくみ取りながらうまくご提案していくことが、現代の伝統工芸業には求められていることでしょう。

雛人形の意味についてはこちらの記事でも詳しく解説しています!

まとめ

雛人形の歴史について、その起源やさらにその前から存在する日本人特有の信仰、現代のひな祭りに通ずるようになったスタイルの変化から、近現代の業界事情まで説明しました。

雛人形は形や意味合いを少しずつ変えながら現代まで残っていますが、その根本には子供の健康と自立、その後の幸せな人生を願う気持ちは変わらずに受け継がれてきています。

一面だけを見ると時代錯誤といった捉え方もあるとは思います。しかし、ぜひ雛人形の根本にある願いをご理解いただいた上でそれをご自身の中で再解釈し、どの程度ライフスタイルの中にとりいれるのか(あるいは取り入れないのか)を決めていただければ嬉しいです!

雛人形の歴史についてでも、その他専門家に聞いてみたいことでも、お気軽に公式 LINEからご連絡ください!

株式会社左京 / 四代目
Writer - 望月 琢矢
静岡の雛人形工房(株式会社左京)の4代目。1991年生まれ。静岡県静岡市出身。東京の大学在学中に留学・海外一人旅などを通じて外国から見た自分・日本を考えるようになる。大学卒業後2年間、東京の上場企業にて会社員を経て2016年から家業である株式会社左京に入社し雛人形制作に携わる。海外経験のある若者代表として、これからの雛文化・伝統文化について考え、試行錯誤の日々。日本の伝統文化が世界から評価されれば日本人は覚醒する!と信じ、静岡発の世界ブランドを作ることを目指しています。 ★Instagram フォロワー18,000人超
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