ひな祭りを楽しみに1年ぶりに人形を出したら虫に食われていた・・・!
そのようなことにならないために、雛人形にとって天敵の一つである「虫」の対策について、創業約100年の老舗『人形工房 左京』の4代目跡継ぎが注意すべきポイントを徹底解説します!
防虫剤による対策が基本ですが、使い方や量を間違えてしまうとかえって雛人形に負担を与えてしまうことにもなりかねないので、注意ポイントについてもしっかりと押さえてもらえると嬉しいです!
衣服や化粧を食い荒らす虫は雛人形の天敵
雛人形は一年の大半を箱の中で過ごしますが、この時特に気をつけなければならない「天敵」の一つが虫なのです。
雛人形の保管場所として好ましいのは
- 湿気が少なく、風通しがよい
- 日光が当たらない
- 寒暖差の少ない
といった条件を満たす場所。具体的にはタンスの上段やクローゼットの上、屋根裏部屋などです。ただ、そういった場所は虫にも好まれることもあります。
そして、そのような場所に発生する虫の中には雛人形を好物にするものも。
例えば
- 髪の毛や着物などの繊維
- お顔の化粧
- 胴体の藁
- 接着剤(特に天然素材を使用している雛人形に多い)
これらの素材に対して、
- ヒメマルカツオブシムシ
- ヒメカツオブシムシ
- イガ
- コイガ
- タバコシバンムシ
などといった虫が発生します。
どの虫がどんな部分を食べるかを覚える必要はありませんが、人形やお道具は手作り品、そして天然素材が使われていることが多いことから、虫の発生は付きものであることはご理解ください。
雛人形に用いられる防虫剤の種類・特徴【おススメ商品も紹介】
防虫剤に使用される原料は大まかに4つのタイプに分けることができます。それぞれの特長を簡単に説明しますが、雛人形職人の視点としておススメなのはピレスロイド系の防虫剤です。
【おススメ!】ピレスロイド系
ピレスロイドは除虫菊に含まれる成分で、類似の合成化学物質としてエンペントリンも挙げられます。
メリットは鳥類や哺乳類に対しては有害性が非常に低いためペットや小さなお子様に対しても危険性が低いことや、防虫剤ながらも無臭で雛人形に嫌な臭いが移らないことです。
他の成分の防虫剤と併用することによる悪影響も少ないため、これまで使っていた防虫剤が不明な場合に新しく使う防虫剤としてもおススメできます。
ただし、使いすぎると銅や真鍮・金箔などを変色させるおそれがあるため注意が必要です。(ピレスロイド系の中でもエンペントリンは金箔には影響を与える可能性が低いです。)
樟脳(しょうのう)系
樟脳は元々は楠を原料とした天然由来の成分ですが、現在は類似の成分が化学的に合成されたものも多く出回っています。
樟脳の特徴的な臭いは好みが分かれるところだとは思いますが、虫にとっては嫌な臭いであるため、強い防虫効果が期待できます。
デメリットはプラスチックなどの合成樹脂を溶かす作用があること、金属を変色させる作用があること。顔などがプラスチックで作られている人形の場合、特に注意が必要です。
また、天然成分由来であることから安全なイメージがあるかもしれませんが、実際には4つの素材の中で最も毒性が高いため、小さなお子様やペットがいる場合特に取り扱いに注意が必要です。
ナフタリン系
ナフタリンは防虫剤だけでなく、ネズミ対策にも使われる成分です。独特の強い臭いが虫・ネズミを寄せ付けないことで効果を発揮しています。
プラスチックやコード皮膜などの合成樹脂を腐敗させる性質があるため、お持ちの雛人形の使用してよいのかはよく確認する必要があります。
また、樟脳に次いで毒性が高い点も取り扱いに注意が必要です。
パラジクロロベンゼン系
パラジクロロベンゼンも合成化学物質で、臭いによる強い防虫効果を発揮する素材。
樟脳系やナフタリン系と同様、合成樹脂を溶かす作用があるため雛人形の種類によっては特に使用時に注意が必要です。
また、樟脳やナフタリンと比べると毒性は低いですが、塩素系の化合物であるため人形の着物の染料と反応して変色させてしまうリスクもあります。
【無難なのは】日本人形協会推奨 人形用ムシューダ(ピレスロイド系)
以上の分類を踏まえた上で、左京としておススメの防虫剤は「日本人形協会推奨 人形用 ムシューダ」です。商品名の通り臭いのない製品なので、臭い移りを気にする必要はありません。
ピレスロイド系の中でもエンペントリンを主な原料としているため、安全性が高いだけでなく人形に何らかのダメージを与えてしまう心配も少ないです(使いすぎると銅や真鍮の変色の恐れはあります)。
防カビ成分が配合されているため、雛人形の虫以外の大敵である「カビ」の対策にもなっているのが嬉しいポイントですね。
雛人形に防虫剤を使う際の注意点【大切な人形を傷めないために】
防虫剤は雛人形を天敵である虫から守ってくれるものでもありますが、使い方を間違えると防虫剤自体が雛人形を痛めてしまう原因にもなりかねません。
防虫剤を使う際に特にご注意いただきたいポイントについて解説します。
直接触れさせない
防虫剤が直接人形やお道具に触れるような状態で保管してしまうと、それが人形の傷みの元となったり、臭いが移ってしまうことがあります。
人形を包んだ風呂敷やお道具を包んだ和紙などの間に挟むなど、直接は当たらないように同封するように注意してください。
使いすぎない
防虫剤は使いすぎることにより成分の濃度が高い状態で保管すると人形にとって変色・悪影響を及ぼす可能性が上がってしまいます。
防虫剤には注意書きの中に適切な使用量が記載されているはずです。正しい用量の範囲内で使用するように注意してください。目安としては60サイズの段ボール箱で約5ℓ。80サイズで約12ℓ、100サイズで約27ℓです。
混ぜない・併用しない
防虫剤に使われている物質は大まかに分けて4種類ありますが、中には混ぜたり併用することによって有害物質が発生したり、人形に悪影響を与えたりするパターンがあります。
併用はしなくても使用する防虫剤を変えた際、昨年の防虫剤の効果が残っていると混ぜたのと同様の効果が発生してしまうこともあるため注意が必要です。
具体的には以下の3パターンは特に要注意。
- 樟脳系×ナフタリン系
- 樟脳系×パラジクロロベンゼン系
- ナフタリン系×パラジクロロベンゼン系
防虫剤はなるべく最初に決めた商品・もしくは素材を使い続けるのが無難です。以前使用していた防虫剤や成分が不明な場合、ピレスロイド系の防虫剤であれば他の防虫剤と混ぜることによる弊害が少ないため、リスクが低いと言えます。
収納時、人形の埃をしっかりと取る
防虫剤があるからといって、完璧に虫を寄せ付けなくなるわけではありません。特に、雛人形の表面に埃が残っていると、その埃を狙ってダニなどが侵入してくる可能性があります。
人形をしまう前にしっかりと毛はたき等を用いて埃を取ることは防虫対策としても重要です。
収納は完全密封しないように
最近の高耐久性住宅に多くみられるのが、密閉性が高すぎるあまりに虫の発生をむしろ促してしまうケース。
雛人形の保管はなるべく収納・保管場所ともに、年中少しでも空気が通りやすい方法と場所を選ぶと虫対策には効果抜群です。
ケース飾りの人形にも防虫対策は必要
ケース飾りの雛人形は一見するとケースで保護されているため、防虫対策も不要に思いがちです。
しかし、ケースの間の隙間などが虫の通り道となります。ケース飾りを収納する際にも防虫剤の用意は忘れないようにしてください。
ケース飾りは人形をこまめに掃除する必要がないなどのメリットもありますが、その分管理を油断してしまいがちなのでご注意ください!
その他、雛人形の収納に気を付けるべきポイントはこちらの記事にまとめています。
手作りの工芸品は虫の発生を受け入れる気持ちも大事
雛人形に虫が発生することはとても気持ち悪いし、残念なことなので驚く人が多いです。しかし、伝統工芸品と自然界の虫は切っても切り離せない関係にあることもまた事実です。良質な天然素材を使っていればどうしても虫が発生します。
今回ご紹介した防虫剤には毒性のある人工物が多いように、「防虫・殺虫」は本来すべきではないという考えもあります。実際に、全ての虫をゼロにする確実な方法はありません。
逆に、全てプラスチック製のものであれば虫に悩むことはなくなるでしょう。
自然に虫が発生して、その虫との付き合い方を工夫するということも伝統工芸品を通じて経験することの一つと捉えてみるのも良いかもしれません。
そしていざ虫が出て、雛人形が汚れてしまったときにちゃんと相談できて、アフターケアが充実している販売店を選ぶことも大切です。
まとめ
雛人形の防虫に関してのポイントをまとめました。
虫の対策に必要な防虫剤には様々な種類がありますが、特性を理解していないと防虫剤自体が雛人形を傷つけてしまう可能性があります。
特に違う素材同士の防虫剤は、併用はもちろんのこと前の年の防虫剤の効果が残っているだけでも悪影響がでることがあるので注意が必要です。
また、防虫剤自体に少なからず人にとっての毒性があることを理解し、伝統工芸品である雛人形と虫の発生はある程度切り離せないと考えることも大事なことです。
今回紹介したポイントを押さえながら翌年も気持ちよく綺麗に飾れるように、虫の対策を行ってみてください!
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