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ひな祭り

雛人形に込められた意味は?現役の職人がルーツから解説

「雛人形とかひな祭りとか古い慣習だし、正直もう不要では?」
「結婚が幸せのような価値観は時代錯誤もいいとこだ!」
「男の子と女の子でお祭りを分けるのって、性差別的な意味合いを含まない?」

確かに、そういったお考えもあると思います。

実際、慣習や伝統は過去無数に存在したものの、時代にそぐわないものは自然と消滅していきました。しかし、そんな中で雛人形やひな祭りが形を変えながらも1,000年以上引き継がれているのには何らかの意味があるのではないでしょうか?

1,000年以上途切れることなく続いている文化は世界的にも大変まれで、この長い歴史自体、世界に誇るべき日本人のアイデンティティと言えます。

どうせなら、何となくのイメージで切り捨ててしまうのではなく、その背景までご理解いただいた上で、改めてご自身やお子様にとって雛人形やひな祭りが必要か・どんな意味を持つかをご理解いただければと思います。

今回は現役の雛人形職人でもある、創業約100年『人形工房 左京』の4代目跡継ぎが雛人形のルーツから現代に受け継がれている意味について徹底解説します!

雛人形のルーツ

雛人形のルーツは諸説ありますが、ここでは現在有力と考えられている通説について解説していきます。

最古の「雛人形」は紙だった!

日本には古来から簡単な人の形をした紙を作り、儀式や祈りの対象とするような信仰がありました。平安時代にはこの信仰が「流し雛」という一つの文化にまで発展しています。

流し雛とは、紙で作られた人形(ひとがた)・形代(かたしろ)を川や海に流す祭りごと。人形・形代に人間の「厄」を引き受けてもらい、それを川や海といった水で清めることで、無病息災を願っていました。

この行事を、中国に由来する陰陽暦では1年で最も不吉な日が3月3日であったため「厄を払う1日」として現代のひな祭りにつながりました。3月3日がひな祭りとなったのは江戸時代前後と伝わっています。

雛人形のルーツであり、「立ち雛」の原形でもある天児(あまがつ)と這子(ほうこ)

雛人形というと一般的には座っているイメージが強いと思いますが、現代でも立っている雛人形もあります。(「立ち雛」と呼ばれるものですね。)。

立ち雛のデザインの元になったのが平安時代に作られた天児(あまがつ)・這子(ほうこ)と呼ばれる人形と言われています。

天児・這子は貴族から始まった風習で、子供が生まれるとその枕元に天児・這子を置きます。天児・這子は子供の病気や災厄を代わりに引き受けてくれる人形として、子供が3歳を迎えるまで大切に飾られていました。

この時代の幼児の死亡率は現代とは比べ物にならないくらい高かったため、子供が無事に育つようにとその厄を身代わりになって引き受けてくれる人形をすぐ近くに置いていたということですね。

人の厄を代わりに受ける身代わり・お守り、という意味合いが強い天児・這子は、それまで紙だった人形(ヒトガタ)から現代の雛人形の精神的なルーツの橋渡し的な存在となりました。

江戸時代、雛人形は流すものから飾るものへ

江戸時代になると、庶民にも一定の余裕が生まれたのか、元来貴族の間での風習であった雛人形の文化が庶民にも広がっていきます

このころから職人の技術の向上もあり、雛人形のデザインは精巧で手の込んだものになっていきます。人形の着物も豪華になり、男雛・女雛だけでなく三人官女・五人囃子といった人形が登場し、雛人形全体が華やかになっていったのも江戸時代です。

雛人形は男雛(お殿様)と女雛(お姫様)、それぞれ天皇皇后両陛下の結婚式がモデルとなっていますが、これは女児が健やかに育ち、将来幸せな結婚ができるようにという願いが込められていることの現われです。

人形がこれだけ精巧で高価なものになってくると、人形を「流す」のではなく「飾る」形で大切にすることで、子供のお守りになってもらうように意味合いが少し変わりました。

けれど、見た目や位置づけは変化しても、「無病息災と幸せな未来を願う」という根底にある想いは1,000年以上もの間、ずっと引き継がれているというわけですね。

現代の雛人形の意味、役割

雛人形のルーツを一通り解説したところで、改めて現代社会での雛人形の意味について考えてみたいと思います。

古来から共通する想いは「子供の幸せ」

雛人形は人を模した形のただの紙であったり豪華に着飾った精巧なものであったり、子供の幼少期に枕元に置いておくものであったり。

その形は時代背景や慣習に応じて変わってきていますが、その中で一貫していることは

  1. 雛人形は厄を代わりに引き受けてくれるお守りのような役割を持っている
  2. 雛人形には子供の無病息災、健やかな成長、そして幸せな人生への願いが込められている

ということです。

もちろん、現代の雛人形にもその想いは脈々と受け継がれており、私たち職人もそんな伝統の小さな担い手としての自覚を持ち、心を込めて日々人形作りに励んでいます。

雛人形に価値観の押しつけや男女差別的な意味合いはない

雛人形は「結婚式」をモチーフに作られています。でも、これは「女の子の幸せ=結婚」という価値観の押しつけを意味するところでは断じてありません。

成人まで生きられない子供が多かった時代においては「健康に育ち、嫁ぐ」ということはこの上ない幸せであり、親の願いでした。むしろ女性は「結婚し嫁ぐ」ことをしなければ1人では生きていけない時代が長かったため、結婚と自立は同じことだったのです。

かつて願われていた「子供の幸せな人生・自立の象徴」のわかりやすい形として結婚式がモチーフにされている、というだけで「幸せ=結婚」というような固定観念を表しているわけではありません。

現代はあえて結婚しないという選択を自主的に選ぶ女性も増えてきています。それがご本人にとっての幸せであれば、雛人形が結婚式をモチーフとしていようと、人形の根底に込められた想いと矛盾することはありません。

女の子の幸せを願う象徴としての雛人形、男の子の幸せを願う象徴としての五月人形。ルーツが異なる結果それぞれ違う形で現代に残っています。

それは、親が子の幸せを願うという本質的な根底が違う形で古来から受け継がれ続けているのであって、時代錯誤な風習ではないのです。

モノに溢れる現代社会で「あえて」大切にしたいシンボル

加えて、現代ならではの重要な意味も増しています。

私たちが生きる現代は「モノ余り」の社会。安くてそれなりに質の良い商品が大量生産され、昭和の時代には持つこと自体がステータスだったような家電や車も、簡単に手に入ります。

モノに溢れ、極力手放したいと思う現代だからこそ、ご両親さま・祖父母さまの想いを形にした雛人形のような、大切にしたいモノの存在意義があるのだと考えます。

伝統工芸品である雛人形は、実は超高等教育教材?!

伝統工芸品である雛人形は多くが職人の手作り。大量生産品や機械が作る製品に囲まれている家庭でこそ、効力を発揮します。

伝統工芸品は基本的に扱いが面倒です。天然素材が多く使われているものは虫が湧いたり、革製品と同様に劣化と変化が激しいもの。天候や湿度・保管などにも気を使わないといけません。その上、手作り品のため若干の不均一やブレなどが多々見られます。

そんな伝統工芸品というものを通じて、親子共に、大事なものの取り扱い方やケアの仕方を学ぶことができます。

また、雛人形の飾り方には茶道や華道などにも通じる日本芸能の基本的な考え方が盛り込まれています。物心付いた頃から何年も毎年の飾り方・しまい方を身に付けることで、日本人が大切にしてきた精神性を体で覚えることができるのです。

飾り方を気にするうちに日本の歴史や伝統にも興味を持つかもしれません。

元々は貴族社会の風習であっただけに、雛人形の中には知的好奇心をくすぐる、超高等な教育教材的な要素が含まれているのです。

雛人形のケアに関しては以下の記事も参考にしてみてください!

雛人形職人が教える!雛人形を綺麗に保つ収納のコツ
【おすすめ防虫剤も紹介】雛人形を綺麗に保管する方法を職人が伝授!

祖父母さまからの大切な贈り物が、思い出深い形見になることも

雛人形は「ご両親さまからお子様へ」と同時に「ご祖父母さまからお孫様へ」のプレゼントでもあります。

雛人形を通じて伝える想いとメッセージは何十年も先に。自分が生まれたことを喜んで送ってくれた祖父母様の気持ちを深く理解できるようになるのは、お孫様が20歳、もしかしたら30歳になる頃かもしれません。

その日まで、自分(お孫様)の両親が雛人形を飾ってくれたり、家族を大事にしてくれたり。そんな長きにわたっての家族の歴史と周りの人からの想いの形として、雛人形はあるのです。

そして、雛人形を一緒に飾ったり、しまったりする際には両親や祖父母との想い出をつくり、絆を深めることができます。雛人形を子供と一緒に飾り、しまう「時間」も、雛人形のプレゼントに含まれているのです。

雛人形は見た目や価格よりも想いが大切

ここで、あえて言っておきたいのですが

「雛人形を買わない人=子供・孫への想いが足りない人」

ということではありません!

お子様、お孫様を想う気持ちは人類共通。ですが、それをどういった形で表すかは千差万別です。

「やはり、雛人形は古い伝統だと思うから不要だ」

というようなお考えも尊重します。

また、

「雛人形にお金をかけるよりも、美味しいものを食べさせたり、旅行に連れていくなど、たくさん良い経験をさせることが子供への愛情だ」

などというのも立派な方針だと思います。

雛人形はお子様、お孫様への想いをわかりやすく形にできるもの、そしてご家族で雛人形を飾り、楽しみ、大切にするという経験を提供できるものとして、選択肢の一つとして提案できるものだと考えています。

大切なのは形ではなく、そこに込められた想い。

こういった視点も雛人形選びの際の参考にしていただければと思います。

まとめ

雛人形の持つ意味について、そのルーツから変遷、特に現代に受け継がれる共通の思いや、現代ならではの意味についても解説しました。

雛人形の形式そのものは、もしかすると「古臭い」「前時代的」と思われる側面もあるかもしれません。

しかし、その根底には古来から変わらない子を思う親の願い・孫を思う祖父母の願いと「子孫への想い」が込められていること、だからこそ消え去ることなく形を変えながら1,000年以上も続いているということ。ご理解いただけたのではないでしょうか?

ぜひ、こういった背景を踏まえながらお子様、お孫様への想いの伝え方を考えてみてください。その一つとして雛人形を選んでいただける際は、ぜひともご相談くださいね。

株式会社左京 / 四代目
Writer - 望月 琢矢
静岡の雛人形工房(株式会社左京)の4代目。1991年生まれ。静岡県静岡市出身。東京の大学在学中に留学・海外一人旅などを通じて外国から見た自分・日本を考えるようになる。大学卒業後2年間、東京の上場企業にて会社員を経て2016年から家業である株式会社左京に入社し雛人形制作に携わる。海外経験のある若者代表として、これからの雛文化・伝統文化について考え、試行錯誤の日々。日本の伝統文化が世界から評価されれば日本人は覚醒する!と信じ、静岡発の世界ブランドを作ることを目指しています。 ★Instagram フォロワー13,000人超
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