【写真付き】雛人形の名前と役割、持ち物を徹底解説!

【写真付き】雛人形の名前と役割、持ち物を徹底解説!

毎年飾っている雛人形、それぞれの人形の名前や役割をパッと答えられますか?

『うれしいひなまつり』という童謡でもお内裏様(※正確にはお殿様)・お雛様(※正確にはお姫様)・五人囃子・三人官女・(※俗称)左大臣と右大臣・仕丁などが登場しますが、すべての人形の名前と役割、実は意外とあいまいだったりしませんか?

今回は一般的な段飾りの中では最も登場する人形の多い「七段飾り」を用いて、人形の名前、役割、持ち物と飾り道具について解説していきます。

お持ちの雛人形について詳しくなることで学びに繋がり愛着が深まれば嬉しいです。

目次から知りたいところ・興味のあるところをピックアップして読んでいただいても構いません!

親王(男雛、女雛)

 まず、『うれしいひなまつり』の童謡につられて誤解される方が多いのが、メインの男女ペアの人形。

男性が「お内裏様」で女性が「お雛様」ではありません!(歌詞の間違いとして実は有名で、作詞者であるサトウハチローさんご本人も歌詞の中の数々の間違いは認めているとか)

「お内裏様」とは大まかには「天皇陛下と皇后陛下」のことを指します。そして、雛人形はお二人の結婚式をモチーフとしているため、お内裏様といえば二つの人形の総称を指します。

同様に、「お雛様」というのは簡単にいえば「雛人形」のことを意味しますが、雛人形はお殿様・お姫様に限らず三人官女以下の全てのお人形のことも含みます。「お雛様」が必ずしも女性の人形のことだけを指しているわけではありません。

つまり、「お内裏様」と「お雛様」は「男と女」で対応しているわけではなく、どちらの言葉も両方の人形を指していると言えます。

ここでは二人の総称として「親王(しんのう)」、男雛(おびな)のことを「お殿様」、女雛(めびな)のことを「お姫様」と呼びます。

お殿様の持ち物:笏(しゃく)

お殿様が持つ、「笏(しゃく)」は威厳を表す象徴的なアイテム。ですが、実は笏の裏には儀式の段取りや出席者の名前が書かれた紙が貼り付けられていました。つまり、現代でいうカンニングペーパーのような役割も兼ねているのです

昔の儀式は単に華やかに見た目を飾るだけでなく、意外と合理的な面も見え隠れしています。

お殿様の持ち物:太刀(たち)

お殿様の腰に差し込みます。天皇陛下がモデルであることを考えるとお殿様が武具である太刀を身につけているのは実はおかしなことなのです。

京都の伝統と慣習にしっかりと沿ったお雛様にはお殿様に刀を持たせていないこともよくあります。

お殿様の持ち物:冠・立纓(りゅうえい)

お殿様の付属品でもう一つ大事なものが、冠と冠の後ろについている纓(えい)と呼ばれる飾りです。俗称:左大臣・右大臣である随身(ずいじん)の冠の後ろにも纓がついていますが、こちらは巻纓と呼ばれる曲がったデザイン。まっすぐな纓を着けてよいのは天皇陛下=お殿様だけなのです。

冠は烏帽子(えぼし)と呼ばれることもあります。

お姫様の持ち物:桧扇(ひおうぎ)

桧扇(ひおうぎ)はその名の通り、薄い桧(ひのき)を重ね合わせてできた扇です。桧扇は、お姫様が自分の顔を隠すための装飾品として使用されました。現代でいうところのお化粧でありファッションとしてのマスクのようなイメージでしょうか。

顔を隠す日本の美意識は平安時代から?

平安時代はお姫様を中心として、貴族の女性のお顔を男性が見ることはできませんでした。いつも御簾という部屋の仕切りの向こうに隠れていて、姿を表す時は扇でお顔を隠していました。その女性の特徴を表すのは顔ではなく、御簾から少しだけ垣間見える衣服であり、十二単。何枚もの重ね着によるファッションセンスで自分の存在を表現していたのです。

現代でもお化粧やマスクなどであまり大胆に顔を見せなかったり、日本人のファッション文化が今なお世界的にも先鋭的なのは、平安時代から根付いている日本人ならではの「見せない美意識」によるものなのかもしれません。

三人官女

三人官女はお殿様、お姫様の下の段に並ぶ三人の女性の人形の総称です。官女というのは宮中に仕える女性の中で、天皇陛下と皇后陛下の付き人をする女性の役職名身の回りの世話から教育係、祭祀のサポートまでこなす教養あるキャリアウーマンたちです。

左の官女が持っている道具:提子(ひさげ)

 提子(ひさげ)は注ぎ口のついた金属製の小鍋。この提子の中にはお祝いのお酒が入っています。

中央の官女が持っている道具:三方 / 三宝(さんぽう)

 三方(さんぽう)はお祝いの盃を乗せる台のこと。三人官女が持つ道具の中で最も格式が高く、三方を持っている中央の女性が三人官女の中で最高位となります。三方の代わりに嶋台と松竹梅を持っている場合もあります。お祝いの席を飾るお道具ですね。

三人官女の多くは中央の女性だけが座っていて、この女性だけ眉がなく、歯を黒く染めているものがあります。これは中央の女性だけが既婚者であることを示しています(当時の慣習で、既婚女性は眉を剃り、歯に「お歯黒」と呼ばれる化粧をしていました。

右の官女が持っている道具:長柄銚子(ながえちょうし)

長柄銚子はその名の通り長い柄のついた金属製の柄杓(ひしゃく)のような道具。提子(ひさげ)に入っているお酒はまずこの長柄銚子に移され、それから盃に注がれます。

このお酌の順序も官女の中の序列が反映されていて、長柄銚子を持った向かって右の官女は左の官女よりも高い職位です。

五人囃子(ごにんばやし)

五人囃子は能楽の音楽を演奏し、式を盛り上げる五人の少年の人形の総称です。元服と呼ばれる昔の成人の儀礼を終えた、数え年12~16歳の少年たちで、おかっぱ頭に侍烏帽子(さむらいえぼし)をかぶっています。

七段飾りの雛人形の中では、三人官女の下の段に置かれます。

『うれしいひなまつり』の歌の中でも「ごにんばやしのふえだいこ」というフレーズが出てくるので、音楽を演奏しているイメージはなじみ深いでしょう。

ちなみに、現代の雛人形の中でメジャーなのは五人囃子ですが、能楽ではなく雅楽を奏でる「五楽人」が置かれることもあります。本来、雛人形は天皇陛下と皇后陛下の結婚式を模しており、宮中の行事では雅楽が演奏されるため、実は歴史に忠実なのは五楽人の方なのです。

しかし、現代に通じる雛人形が流行し始めた江戸時代には民衆の間で能楽の方が馴染み深かったためか、五人囃子を並べる方がメジャーとなりました。

一番左の五人囃子の人形の持ち物:太鼓(たいこ)

一番左の人形は両手にバチを持ち、太鼓(たいこ)を叩きます。現代でもなじみのある太鼓に似た形状ですね。

左から二番目の五人囃子の人形の持ち物:大鼓(おおづつみ)

左から二番目の人形が持つ打楽器は、手に抱えられるサイズの大鼓(おおづつみ)です。バチではなく、直接手で叩くことで音を出します。

中央の五人囃子の人形の持ち物:小鼓(こづつみ)

中央の人形も似たような鼓を持ちますが、サイズは更に小さく、肩に担いで叩くことができる小鼓(こづつみ)と呼ばれる楽器です。掌ではなく指で叩くことで多彩な音を出します。

右から二番目の五人囃子の人形の持ち物:笛

右から二番目の人形は横笛を持っています。楽器のうち3つが打楽器の中、唯一音色を出すことができる楽器ですね。

一番右の五人囃子の人形の持ち物:扇

一番右の五人囃子が持っているのは扇。彼の役割は謡(うたい)。現代のバンドで言うヴォーカリストです。

単に歌うだけでなく、扇を使って大きく動くことで演奏全体を盛り上げるのも謡の役割だったと言われています。

随身(ずいじん)

随身は俗称「右大臣・左大臣」と呼ばれる二人の人形の総称です。五段飾りから登場します。随身はお殿様、お姫様を守る警護役を担っています。

しかし本来、右大臣・左大臣は政治家のこと。武具を持ったり、警護役として五段目に並ぶというのはおかしなことです。雛人形の随身のお二人の姿はあくまで警護役であり、大臣ではありません。右大臣・左大臣とは誰かがつけた俗称であり、正しい呼び方ではありません。しいて正すのであれば、「老人(ろうじん)」と「若(わか)」とするのが良いでしょう。

向かって右に老人、向かって左に若を置きます。

ちなみに、『うれしいひなまつり』の歌には3番・4番があり、「すこししろざけめされたか あかいおかおの うだいじん」という歌詞が3番に出てきます。しかし、実際に赤い顔をしているのは左大臣(若)の方です。

これも動揺の間違いとして有名です(作者が自分から見ての方向で書いてしまったのでしょうか...?)。 随身は同じ物を持ちます。

随身の持ち物:弓矢

随身は弓矢を持っています。矢は手に持っているだけでなく、背負っているデザインもあります。

随身の持ち物:巻纓(けんえい)

冠には巻纓(けんえい)と呼ばれる官位を表す飾りがついています。お殿様がつける立纓(りゅうえい)とは対照的に、曲がったデザインをしています。

随身の持ち物:太刀(たち)

お殿様と同様、腰に太刀を差し込みます。

仕丁(しちょう / じちょう)

「仕丁」は「しちょう」もしくは「じちょう」と呼ばれる三人の人形の総称です。仕丁は宮中の雑用係。

それぞれの人形は特徴的な表情をしており、向かって右の怒っている人形が「怒り上戸」、泣いている中心の人形が「泣き上戸」、左の笑っている人形が「笑い上戸」とも呼ばれます。人生の喜怒哀楽を表しているとも言われています。

怒り上戸の持ち物:台笠(だいがさ)

怒り上戸が持っている傘は台笠と呼ばれる、現代で言う日傘の役割をする傘です。

泣き上戸の持ち物:沓台(くつだい)

泣き上戸が持っている台は沓台と呼ばれます。外出時に履物を脱いだ時に置く台です。

笑い上戸の持ち物:立傘(たちがさ)

笑い上戸が持っている笠は立傘です。現代の雨傘です。

このように、お殿様とお姫様が外出する時、あらゆるシチュエーションにも対応できるような道具をもってお供するのが仕丁の役割であることがわかります。

上に紹介した台笠・沓台・立傘を持つ仕丁は主に京都以外のお雛様の特徴で、都へ向かう道中に必要な道具類を揃えています。

一方、京都のお雛様を中心に、仕丁が掃除道具を持っているパターンもあります。これはかつて都であった京都に「お迎えする」ための道具類。仕丁の種類にも「赴く」のか「お迎えするのか」が分かれているのが興味深いですね。

雛人形の左と右の位置関係についての裏話!

一般的にはお雛様といえば、男雛が向かって左側・女雛が向かって右側です。一方、京都のお雛様の多くはその逆で、男雛が向かって右・女雛が向かって左に位置しています。実はどちらに並べても間違いではありませんが、これにはちゃんとした理由があります。

太陽が昇る位置が上座!

日本では太陽が東から昇ることから、東側は神の場所とされ尊ばれてきました。京都御所の紫宸殿は南向きに建てられてるため、左(向かって右)側が東となり、これが「左(向かって右)上位の文化」として定まりました。今でも日本古来の伝統を守る芸能・作法等(能・歌舞伎・茶道・華道など)には、この「左上位の文化」が残っています。

現代では結婚式でも「右上位」となり、向かって左側に男性が並ぶようになりました。これは明治時代以降の西洋化にともなっての変化でしょう。明治時代以降、天皇皇后両陛下の並び方も変化し、お雛様も西洋式に並べるようになりました。

しかし、七段飾りの二段目以下の段では、左(向かって右)側に上位の人・物が置かれます。三人官女の長柄を持っている人・五人囃子の唄い・左大臣・桜・お茶道具・牛車など。男雛・女雛だけは「右上位」に変わりましたが、それ以下は「左上位」が残っているのです。

ちなみに左京の商品は、男雛を向かって右側に並べる、より日本古来の伝統的な並べ方を守っています。 (※現代の男女平等の観点から言うと 男=上座 という考え方自体に疑念がありますが、正解・不正解ではなく、歴史的伝統に沿っています。)

七段飾りのお雛道具の名前と役割

人形と持ち物だけでも盛りだくさんですが、雛人形の段飾りには人形が持っていないお道具もたくさん飾られます。 七段飾りでメジャーなお道具についてもご紹介します!

屏風(びょうぶ)

屏風(びょうぶ)は元々は風を防いだり視線をさえぎるための調度品ですが、芸術性が高く、装飾品としての意味合いも強いです。

雛人形においては親王の後ろに飾ることで、人形を引き立て、全体を華やかにする役割を担っています。

金一色のもの、金をベースに絵画が描かれているもの、白や黒を基調としたものなど様々なデザインが楽しめます。

屏風は間仕切りの役割を果たし、屏風内と外を分けて空間に世界観を作り上げます。季節のお飾り物ならではの特別感と、非日常感を生むための大事な要素となります。

雪洞(ぼんぼり)

ぼんぼりはロウソク立てを薄い紙(火袋)で覆った調度品です。『うれしいひなまつり』の冒頭に「あかりをつけましょぼんぼりに」とあることからも、照明・外灯の役割をします。

雪の洞と書いてぼんぼりと読むのはあて字ですが、その見た目から連想されて付けられた名前でしょう。

また、雛人形にはぼんぼりともう1種類、「油灯(ゆとう)」と呼ばれる灯り飾りがあります。ぼんぼりの白く丸い部分が無く、シンプルな形状。油灯はぼんぼりの元来のカタチで、灯りが装飾とされる前の形式です。そのシンプルさとしっとりとした雰囲気が人気です。

ぼんぼり・油灯ともに灯り飾りは親王の左右に一つずつ配置します。現代の雛人形では電球・LEDライト・電池式・コンセント式など、生活様式に合わせて様々選ぶことができます。

三方 / 三宝

三方(三宝)は三人官女の真ん中の女性の持ち物としても出てきましたが、親王の前にも飾られます。

親王の前に飾られる三方の上には儀式でお酒を入れる器である瓶子(へいし)が2つ置かれ、その中には生薬となる葉などが刺されています。瓶子のことは徳利(とっくり)と呼ぶこともあります。

高坏(たかつき)

高坏(たかつき)はお菓子や果物を置く、献上用の器です。一般的な雛人形では丸餅が乗せられています。

お膳

お膳には、平椀・汁椀・高杯・壺椀・飯椀の五点セットが乗っています。結婚式のご馳走が乗っているめでたいお膳です。二個一組で並びます。

菱台

菱台は、菱餅を置くための台です。上から魔よけの「赤」、健康祈願の「緑」、清浄の「白」が重ねられた菱餅が、お膳同様二個一組で並びます。

桜橘(さくらたちばな)

桜橘はその名の通り桜の木と橘の木の飾りです。京都御所にある左近(向かって右側)の桜・右近(向かって左側)の橘が由来で、魔よけ・不老長寿・繁栄などの願いが込められています。

また、同じお花飾りとして、紅白梅が用いられることもよくあります。 左右に紅梅と白梅を並べて紅白梅と呼びます。 平安時代以降、桜橘と同じように紅白梅も盛んに日本人に親しまれていました。

嫁入り道具

雛人形は結婚式をモチーフとしているため、お姫様の嫁入り道具も並びます。

かつては嫁入り道具の豪華さは女性の実家の格式の高さと裕福さを表していたため、とても重要な役割を担っていました。雛人形のセットとして飾る嫁入り道具は、箪笥・長持・表刺袋(うわざしぶくろ)・鏡台・火鉢・針箱・茶道具などです。

貝桶(かいおけ)

嫁入り道具の一つとも言える貝桶は、平安貴族の遊び道具の一つ「貝合わせ」を収納する桶です。

貝合わせとは、現代でいう神経衰弱。2つに分かれたはまぐりの貝の内側に1セットずつ同じ絵を描き、同じ組み合わせとなる貝を当てていく遊び。組み合わさる貝は必ず同じ組み合わせになるため、「一途な想い」の象徴として嫁入り道具の中では最高位とされ、嫁入り行列の先頭を切ったと伝わっています。

雛道具の中でも象徴的で位の高い道具として、最近では親王の前に2つ1組で置くことが多いです。

行器(ほかい)

行器と書いてほかいと読むこの雛道具は、貝桶に似た形ですが、貝桶が六角形(本物は八角形)なのに対して、行器は円形で、用途が違います。 嫁入り道中の食べ物を入れる桶で、いわゆるお弁当箱の役割を果たしました。雛人形のセットに含める際には「生涯食べるものに困らないように」という願いが込められています。

お駕籠・重箱・御所車

七段飾りの一番下に飾られるこれらの道具はお姫様の御輿入れ(嫁入り)を象徴する道具です。

お駕籠(おかご)と御所車(ごしょぐるま)は高貴な人を乗せて運ぶ乗り物、重箱は現代でもおせち料理ではなじみがありますが、食事を入れる箱です。

毛氈(もうせん)

雛人形の下に敷かれている赤い布は毛氈(もうせん)と呼びます。赤は太陽を表す生命力の源であると同時に、魔よけの意味合いを持つため、神聖な儀式である結婚式にふさわしい色として用いられています。

まとめ

雛人形に登場する人形の名前、役割、持ち物とさらに飾られている道具についても解説しました。盛りだくさんの内容になりましたが、新たに知れたこと、より深く知れたことなど何かしらあったのではないでしょうか?

ちなみに、メジャーな道具については一通り紹介しましたが、飾り方や地域によってはこれでもまだ紹介しきれない道具がたくさん存在します。雛道具に何を置くか、についても決まりがあるのではなく、文化を楽しむ人とつくり手の遊び心によって多種多様なものが用意され、自然と定形のようになっていったんですね。

全部覚える必要はなくて、「これだけ文化的にバリエーションに富んだ世界なんだ!」ということを感じ取っていただけると嬉しいです!

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