雛人形で一番目を引くのは、やっぱり「着物」ですよね!
男雛が黒で、女雛が赤やピンク。こんな昔ながらの色や柄に加えて、最近ではモダンなデザインの雛人形も出てきています。自宅に迎える雛人形をどれにしよう…と、迷いに迷っている方も多いのではないでしょうか。
でも、大丈夫!!!
今回は雛人形をつくり続けて約100年の『人形工房 左京』の4代目跡継ぎが、がっっっっっつり監修して雛人形の着物の記事をお届けします。
初めてお雛様を選ぶ方は、ぜひ読んでみてくださいね!!
動画でも解説していますので文章を読むのが面倒な方はこちらをご覧ください。
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実は2つある!着物の着せ方で違う、雛人形のつくりかた
雛人形のつくり方は、実は2種類あります!
着物の着せ方が異なっていて、出来上がった雛人形もイメージが大きく変わります。簡単に説明していきますね。
①木目込み人形(きめこみにんぎょう)
木でつくった胴体に溝を掘り、衣裳の布を埋め込んでつくる人形のことです。
小ぶりで型崩れしにくく、扱いやすいのが大きな特徴。
木型からつくりこむため、職人ごとに色が出ます。個性的なデザインの雛人形が欲しいなら、木目込み人形で選ぶと良いかもしれません!
ころんとした可愛らしいフォルムに、レトロ柄の着物。
お家のインテリアとしても重宝できそうです。
■衣裳着人形(いしょうぎにんぎょう)
胴体と顔、手足を別々につくり、衣裳を人形に着付けて完成させる雛人形のことです。最近はこちらの人形が主流なので、お雛様と言えば衣裳着人形を思い出す方が多いかも。
衣裳着人形は、こちらの写真のように、より人間らしいリアルなフォルムの雛人形に仕上がります。着物の色の重ね方や刺しゅうの入り方などの組み合わせが無数にできるため、着物の色合いや刺しゅうまでを楽しみたいなら、こちらの人形がオススメ。
本物の着物のように、生地にボリューム感があって華やかになる一方で、人形の扱いは非常にデリケート。出し入れする際は慎重に扱う必要があります。
カラフルな色や柄には、深い意味がある!雛人形の衣裳のヒ・ミ・ツ
雛人形の着物。カラフルな色や柄には意味があるって知ってましたか?
それもそのはず。雛人形の着物は平安時代の宮中衣裳がもとになって、デザインされています。
平安貴族が大切にしたのは、奥ゆかしさ。
表面的に美しいだけでなく、重ねた着物の色合いが季節や気持ちを表していたり、柄がTPOに合っていたりすることを重視していたのです。
平安時代に生きていたら、今よりもおしゃれするのが大変そうです…。
ここからは雛人形の着物のルーツについて、少し説明していきますね!
THE・華やか!!平安貴族が着ていた「宮中衣裳」ってどんなもの?
雛人形が着ている宮中衣裳は、2種類。男雛が 「束帯(そくたい)」 、女雛が 「十二単(じゅうにひとえ)」 を身につけています。これらは両方とも正装で、天皇のいる朝廷や宮中の儀式に参加するときに身につけていた着物です。
束帯は冠、袍(ほう)、半臂、下襲(したがさね)、袙(あこめ)、単(ひとえ)、表袴、大口(おおぐち)、石帯(せきたい)、魚袋(ぎょたい)、襪(しとうず)、履(くつ)、笏(しゃく)、檜扇(ひおうぎ)、帖紙(たとう)から構成されていて、文官と武官、子ども用の3種類があったようです。
ちなみに、一番上に着ている「袍」は身分によって着用できる色が決まっていました。また、石帯は締め方が非常に難しいものなんだそう。
十二単は、上部に肌着がわりの「単(ひとえ)」、複数の色を重ね合わせた「五衣(いつつぎぬ)」、「唐衣(からぎぬ)」、「裳(も)」を羽織り、下部には「長袴(ながばかま)」を履いて、ようやく完成します。きちんと着ると20kgほどの重さがあるらしく、平安貴族の女性も楽ではなかったようですね…。
雛人形の着物は、この平安貴族の衣裳をもとに、職人の手によって1枚1枚丁寧に作られているのです!
おしゃれ番長めざすなら、色彩感覚をみがけ!平安貴族のたしなみとは
平安貴族が着ていた、束帯や十二単。とっても華やかだなあと思う着物ですが、平安時代のおしゃれ番長をめざすなら、非常に繊細な色彩感覚が必要です。
平安貴族は、上着から下着まで、すべての着物の色の重ね方が季節感とマッチして美しいことを重視していました。
春なら桃の花を意識して、あわい赤に萌黄を重ねる。
夏ならかきつばたを意識して、藍に萌黄を重ねる。
季節感だけでなく、行事の際は自分たちのグループがいかに華やかにおしゃれに見えるかを競って、グループ全体の色合いまで気にしたのだそう(当時は身分の高い女性に使える女房がいたので、身分の高い女性ごとに派閥のようなグループがありました)。
このような平安貴族の、日本古来の季節感を大切にした色の重ね方は「かさね色目」と呼ばれています。
雛人形ももちろん、このかさね色目を意識した着物づくりを行っています。
雛人形の着物には、日本の四季の草花や風物詩、貴族達の高い美意識が体現されているのです。
ちなみに左京では、このような着物の重ね方で雛人形をつくっています。
調べてみるとおもしろい?着物の柄が意味するもの
雛人形の着物をよく見ると、日本的で細かな文様が織り込まれていることに気がつきます。それぞれの文様には、実は深い意味があるのです。
日本の着物の多くは、有職文様(ゆうそくもんよう)が装飾されています。有職文様とは、平安貴族の衣裳や調度品にほどこされた優美な文様の総称です。その中でも特に、祝い事に使用されていた文様を「吉祥文様(きっしょうもんよう)」とよびます。
吉祥文様は、鶴、亀、松、桜、唐草など縁起がいいとされる動植物をモチーフとし、厄除け、長寿延命や子孫繁栄を意味する柄に昇華されました。吉祥文様は庶民の間で雛人形が定着し始めた江戸時代にバラエティ豊かなものになり、昭和時代以降も現代的でお洒落な柄に進化しています。
着物の色だけでなく、柄にも伝統的な日本の文化が色濃く残っているのです。
雛人形の着物はどう選ぶ?
ここまで、雛人形の着物の伝統的な色や柄についてお伝えしてきました。では、実際に雛人形を購入する際、どのような点に注目して着物を選べば良いのでしょうか?
素材で選ぶ
雛人形の着物で特徴的なのは、「紋織(もんおり)」と呼ばれる、縦糸と横糸の浮き沈みで模様をつくる織技術。
刺繍や布へのプリントと違って、布を作る時に模様を織り込んでしまうため、立体的でシンプルかつ高級感のある生地に仕上がります。一方で、糸が繊細で崩れやすいため、紋織でつくられた雛人形の衣裳は丁寧に扱う必要があります。
紋織の生地の素材は、大きく分けてこちらの2つ。
■絹
絹は蚕(カイコ)という蛾がつくった繭が原料となる布地で、気品ある光沢感やなめらかな肌触りが特徴。たくさん取れる原料ではないからこそ、絹100%の生地を使った雛人形は最高級品です。
■化学繊維:ポリエステル
最近では化学繊維の質も向上しており、ポリエステルの生地も風合いが良く、光沢の美しい生地が増えています。
また、生地の産地にこだわることもできます。例えば、古くから高級品として知られる西陣織の着物で雛人形をつくることもありますし、場合によっては手持ちの着物の帯を利用して雛人形の着物を仕立てることもできるようです。思い出の着物を雛人形にリメイクすることができます。
製法で選ぶ
衣裳の製法にも種類があります。
■一般的な製法
一般的な雛人形の製法では、上下が分かれた着物を着せてつくっています。
■本着せ
「本着せ」とよばれる製法では、上下が繋がった1枚の内掛けを人が着るかのように人形に着せています。本着せで作った雛人形は、人間に着物を着せるのとまったく同じつくりを再現しているため、より本格的な人形をつくることができます。
また、着物の仕立て方や縫い目・折り目などにも職人仕事の細やかさが表れます。縫い目や折り目が多く、できるだけ境目を隠すよう作られた雛人形は、職人の手仕事が光る良い品だといえます。
このような素材や製法を1つの基準として、雛人形の着物を選ぶことが可能です。ただ、素材や製法にこだわった商品は貴重で高い技術が求められる分、どうしても値段が高くなります。
値段とデザイン、品質のバランスを見ながら選んでみると良いでしょう。
もはやインテリア?! シンプル・モダンな雛人形は飾って楽しい
最近では、子供の成長を願う人形としてだけでなく、大人の女性の間で「インテリアとしても飾れる雛人形を購入したい」とう需要が増えています。
シンプルで落ち着いたカラーの着物や、モダンな柄の着物の人形を選べば、洋風のお部屋にも雛人形が馴染みやすくなります。インテリアと調和する着物のデザインであれば、雛人形を飾るのが一層楽しくなるかもしれません。
まとめ
雛人形の着物は、知れば知るほど奥深い!
これまで何となく見ていた雛人形の衣裳も、色柄の持つ伝統的な意味合いやつくり手が込めたこだわりを知るだけで、見方が変わってくるのでは?
ちなみに、もし雛人形を購入後、着物が汚れてしまった場合はぜひ購入したお店に相談してみてくださいね。左京でも人形のケアの仕方は、購入時に丁寧にご説明します(ケアの仕方をまとめた紙も同封してます)!!分からないことは、いつでも聞いてください!
伝統は大事にしながらも、長く愛着が持てるお雛様を選べたら最高ですね!!
(文・稲葉めぐみ、編集・市岡光子、監修・望月たくや)